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ラガーマン [只ノ雑記]

 今日はちょっと真面目な話。

 高校の同級生が自殺した。
 正確に言うと、自殺していたことを今日、知った。
 9月10日に死んだらしい。自宅で。

 私は山梨県にある寮を持った高校へ進学した。
 全寮制ではなく、県外生を受け入れるための寮。高校は進学校だった。とはいえ、前向きに進学へ昇る中途にあるようなものではなく、特に県外から進学してきた者にとっては俗に言う滑り止めの高校であり、言ってしまえば高校進学で落ちこぼれたヤツの集まり。
 高校進学のために勉強し、勉強させられ、希望校に受かることだけ考えて、受かるはずだったのに、落ちて、落ちたショックを引きずりまくったまま、結局は滑り止めとして受かっていた高校へ進むしかなく、気付いたら山奥の寮へ入らされていたっていうヤツら。まあ、それでも夢を抱いているようなお気楽極楽なヤツは微塵も居なく、その“負け”を取り戻すべく必死で大慌てでまだまだ3年も先にある大学進学へ盲目的に突っ走るか、その“負け”を大いに引きずりまくって腐っていくかの二種類の、しかしいずれも人格形成未熟で多感な人間が同居しているという異様他ならない環境。それはとっても刺激的である反面、とっても危険であった。
 うさばらしのようないじめは当然存在するし、人の悪口ばかり言っているヤツ、タバコとかふかして悪ぶってやり過ごそうとするヤツ、異常な性愛に走ろうとしてしまうヤツ、などなど。

 そんな中、彼は至ってフラットでナチュラルという、希有な存在だった。

 怒った所など一度も見たことがない。人の悪口やグチを聞いたこともないし、悲しんだ姿を晒すこともない。その一方、心の底から喜んでいるところも見たことがなかった。
 今思うと、それだけ抱え込んでいたのかもしれない。

 1年生のとき、彼は隣の部屋の住人だった。4人部屋。同じクラスだったということもあり、仲が良かった。

 彼はいつも、「ウエノ〜」と言いながら近づいてきて、微笑みかけてきた。

 彼はラグビー部に所属していた。その学校で最も体育会系な部であった。練習は土日以外は毎日行われ、寮に帰ってくるのはいつも食堂が終わるギリギリだった。風呂から出て食堂を通るとき、人気のない食堂で彼と同じラグビー部の友人と2人が大盛りのメシをかっくらっている所に出会し、「片付けができないじゃない」と食堂のおばちゃんに怒られるまで馬鹿話をしていたことを思い出す。

 彼はラグビーで鍛えた屈強な体を持っていながら、それでいて、いつも優しい微笑みをしていた。誰でも受け入れてくれる彼の優しさがにじみ出ている微笑みだった。

 ラガーマンといえば、今でも彼のことを思い出す。
 ラガーマンとは厳しい練習によって培った強さと優しさを兼ね備える男だと、彼は教えてくれた。

 そうはいっても、彼は単にまじめなだけでない。
 彼はロックやブルーズを、音質が良さで選んだケンウッドでよく聞いていた。ブルース・スプリングスティーンを初めて聞いたのは彼のウォークマン越しだったし、パワーステーションのゲット・イット・オンを教えてくれたのは彼だった。
 そこからT・レックスに行き、その後、バンド活動をするようになった私にグラムが多大な影響を与えたことを考えれば、彼によって私の音楽性は決められたといっても過言ではない。

 彼は間違いなく音楽においての師匠の一人であり、また彼は私にとってパチンコの師匠でもある。

 中学の頃は毎日のようにゲームセンターに通っていた私であるが、高校生になってちょっと飽きてきていた。それでもほとんど惰性でゲームセンターに仲間と行っていたのだが、彼だけは別の場所に行っていた。北口にあるパチンコ屋。さすがに高校一年生でパチンコ屋に行くのは憚られていたのだが、彼が行っているのだから安心だろうと思うようになり、初めてパチンコ屋へ連れて行ってもらった。忘れもしない、羽根モノ・ビッグシューター。
 それはそれで楽しかったが、私が本当にパチンコにハマることになるのは一発台のスーパーコンビ。もちろん、その存在を教えてくれたのは、彼。
 その後、今でもパチンコを続け、パチンコが仕事になっていることを考えると、「なんてことを俺に教えてくれたんだよ!」と毒づきながらも、「こんなに気持ちがいいものを教えやがって!(涎)」と感謝したい。

 しかし、もう、毒づくことも感謝することもできない。

 5年くらい前、久しぶりに彼に会った。
 ラグビーをやめてしばらく経っていたからなのか、屈強な体ではなくなっていたが、ちょっとやさぐれた感もあったが、「ウエノ〜」と言いながら近づき微笑んでいた。

 でも、もう、そのとき、ホントは、すでに、大きな何かを抱え込み始めていたのか?
 それとも、高校生の時、知り合ったときから、実は、抱え込み始めていたのか?

 それから1,2年後に、高校の仲間内で同窓会をやろうっていう話になり、実際にやったのだが、私は仕事が忙しいという理由で、大した理由もないのに、本当は面倒臭くなっただけなのに、行かなかった。

 これほど後悔することはない。

 いつまでもいつまでもみんないるって、どこかで思っていたところはある。特に彼は、いつまでも、いつになっても、微笑みながら、「ウエノ〜」って言いながら近づいてくるって、信じていたのだと、思う。

 でも、もう、ない。
 だから、これほど後悔することはない。

 彼が死ぬほどになったのはなぜなのか? 年末にみんなで線香を上げにいくことになった。そこで聞くのかもしれないし、わからないままなのかもしれない。しかし、彼が、死ぬほどのことになったのは事実であり、それはもう、変わることがなくなってしまった。

 私は自殺する者に対して「先に逝きやがって! ずりぃよ!!」という感情しかもっていなかったが、彼の死によって別の感情を覚えることとなった。

「おつかれさま」

 彼の笑顔を思い出すと胸が締め付けられる。今日は酒を大量に呑まないと眠れそうにない。だからとことん呑む。彼と寮で隠れて呑んだ酒を思い出しながら。


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